安心・無痛をテーマに幼児の虫歯予防や歯周病など歯科治療が苦手な患者さんの歯を守ります-足利市・歯科医院

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 お口の健康コラム Vol.15
歯科医師 石井久恵 


食べ物の大切さを考える

 

 私たち歯科医療関係者は虫歯予防という観点から食べ物についてのお話を日々、患者さんたちにしています。

 虫歯になるのは砂糖の取り過ぎによるもの、というのは皆さんよくご存知ですが、砂糖の摂取量だけが問題かというと、そうではないということはあまり知られていないようです。また、甘い物=砂糖が多いと思われていますが、甘さという感覚の曖昧さにも落とし穴があります。甘いものを食べ過ぎるのはよくない、という思いから、お菓子を少しずつ子供に与えているお母さんや、スポーツ飲料は身体に良いし、あまり甘くないと考えて、積極的に子供に与えることにも、実は問題が潜んでいるのです。

 甘い物の食べすぎ=虫歯  これは必ずしも正しい公式ではありません。

食べ物 × 甘い物(砂糖)× 飲食回数 × 虫歯菌の数 × 唾液の質(緩衝能)× 唾液量 ×歯の質 × 時間 などが総合的に関係して虫歯になっていくのです。

 では、どのような食生活をすればいいのでしょうか。

 現代の豊かな日本社会では、食べ物が手に入らないということはありません。甘いお菓子やスナック菓子、インスタント食品、ファーストフードなど、いつでも何処でも買うことが出来ます。大人ばかりでなく、子供たちも食べたいと思えば、いつでも好きな物を食べることが出来ます。このような嗜好食品の氾濫だけでなく、戦後、日本の食文化は急速に変化して来ました。ご飯を主食とした日本古来の低カロリー、高たんぱくの食事から、肉を中心とした高カロリーで脂質の多い食事へと変化しました。朝食も手軽なパン食が増え、ご飯、味噌汁、納豆、焼き魚といった和食が減りつつあるようです。

 パン食は砂糖という観点だけから見ても、パンそのものに砂糖が含まれているものが多く、その上にバターやジャム、チョコレートクリームなどを塗る場合が多いので、必然的に朝から多量の砂糖を摂取することになります。管理栄養士の、幕内秀夫氏によれば「ほとんどのパンはお菓子と考えよう」ということですから、朝からお菓子を食べているということにもなります。幕内氏はさらにパン、ラーメン、スパゲティーという「カタカナ食」には油がよく合い、カタカナの食事はカタカナの食品を呼ぶといいます。パンを食べる時に一緒に食べるものを考えると、ハムエッグ、オムレツ、ベーコン、ソーセージ、サラダ、などのカタカナ食品が思い浮かびます。飲み物としても牛乳やジュースを摂るために、ここでもまた脂肪と糖分の摂取が増えてしまうのです。

 また、パンそのものは硬い食物に入りますが、飲み物と一緒に摂ると咬まなくても口の中で溶けてしまいます。付け合せのオムレツやヨーグルトなども和食の納豆や焼き魚に比べると咬む回数が少なくてすみます。リズミカルに咬むことで、歯の石灰化は促進し、強く硬い歯になることを考えると、パン食は歯を強くするのに適さないとも考えられます。

 ところで、「気」という字は、戦前までは「氣」と書いていました。中心が「米」です。字源の意味は、食料として贈くられる米であったそうです。「气」は立ちのぼる山氣で音を表すために使われているそうです。気力、元気、やる気、気迫、本気、病気、根気、正気、陽気、陰気、気持ち、気分、狂気、・・・・。気の中心は米とみなして、仮説を立ててみると面白い、と大沢 博氏は書いています。元気のよい人はしっかり米を食べているのだろう。根気のない人はしっかり米を食べていないのだろう。殺気をかもし出す様な攻撃的な人は、米をしっかり食べていないのではないか。

 虫歯予防のお話をお母さんたちにして、ジュースやおやつの与え方が随分改善されているのに、お子さんに虫歯が出来てしまうような時、朝ごはんにパンを食べているということが良くあります。

 お米中心の健康的な食事を規則正しく取ることが虫歯予防だけでなく、生きてくうえでもとても大切なことのように思います

 話は虫歯予防に戻りますが、虫歯が出来てしまうようなお口の中を、タンカーの原油流出事故に例えたお話があります。海岸に流れ着いた途方もない原油を大勢の方々がひしゃくですくったり、岩についた原油を雑巾で拭い取ったり、原油にまみれた鳥たちを洗ったしている様子が報道されています。懸命に海岸をお掃除しても、原因である事故を起したタンカーそのものを撤去しない限り、原油は流出しつづけます。原油を流出し続けるタンカーとは、甘い物のだらだら食いです。お母さんたちがスーパーへ行って、甘いお菓子やジュース、イオン飲料を買い続けながら虫歯予防をするのは、事故を起こしたタンカーに原油を補給し続けながら、お掃除(歯磨き)をしているようなものです。そして甘い物と油脂が氾濫しているお口の中の汚れは、まさに原油のように、ネバネバと粘着性があり、磨いても磨いてもなかなかきれいになりません。原油の流出を止めるように、飲み物をお茶やお水に変え、甘いお菓子のだらだら食いを止めると、歯につく汚れもさらっとして落としやすいものに変わってきます。

 虫歯を治したから、甘いものを食べてもいい、ということではないのです。原油の流出を止めない限り、いくら歯を磨いても、お口の中の環境は改善されず、また新しい虫歯が出来てしまうのです。岡崎好秀先生は著書の中で「僕は宜保愛子さんのように霊は見えないけれど、長年子供たちの口を見ていると、なんとなくこの子の将来の口が見えるような気がする。」と書かれています。原油で汚染された状態が長く続けば、環境や生物にも悪影響が出るように、砂糖と油脂で汚染された食生活が、子供の口腔内環境の将来にどのような影響を与えるか、ということも予想がつくということでしょう。

 

 さて、甘いものの過剰摂取は虫歯だけの問題なのでしょうか。おやつの回数を決めている子供と、だらだらと食べている子供で、歯科治療をきちんと受ける事のできる子供の割合が多いのは、おやつの回数を決めている子供である、という統計の結果がありますが、もう1つ、虫歯予防の話をしていて気づくことがあります。それは、虫歯がたくさんあるお子さんをお持ちのお母さんほど、言うことを聞かない子供にほとほと困っている、という側面が垣間見えるのです。つまり、砂糖の摂取量が多いと、自分の行動をコントロールすることが難しくなるのではないでしょうか。

 「食事で治す心の病」という本に、低血糖症について以下のように書かれています。

 『砂糖はブドウ糖と果糖という2つの分子が結合している二糖類で、分解吸収されるのが早く、量が多いとすぐに高血糖になる。高血糖になると、すい臓からインスリンという、血糖を降下させるホルモンが出て血糖を下げる。しかし、そのインスリンが過剰に分泌されれば、血糖は低くなり過ぎてしまう。これが低血糖である。血糖値が1dl中50mg以下になると低血糖症というが、ある時点から1時間以内に血糖値が50以上下降した場合や、絶食時の血糖値より20以上下降した場合なども低血糖症と診断される。低血糖の症状としては、空腹感、あくび、脱力感、頭重感、冷や汗、ふるえ、動悸、けいれん、性格の変化、意識障害などがある。この低血糖の状態が、小糖類の取りすぎによるインスリンの過剰分泌により起きている人がいるのである。これが「食原性の低血糖症」である。この知識がないと、原因となっている糖をさらにとらせることで、悪化させてしまうことになる。血糖低下が起こると、それに対処するために、副腎からアドレナリンとノルアドレナリンが分泌される。これが大脳辺縁系を刺激し、怒り、不安などの情動変化を起こしやすい。攻撃ホルモンといわれるアドレナリンは、怒り、敵意、暴力といった攻撃的な感情を刺激し、反対にノルアドレナリンは、恐怖感、自殺観念、強迫観念、不安感といった感情を起こす。ノルアドレナリンは大脳皮質前頭野46野の神経伝達物質となっているので、低血糖値などによりノルアドレナリンの濃度が急上昇すると、理性的な判断ができなくなり、発作的な感情に支配されてしまう。いわゆるキレる症状である。

 イライラして、感情のコントロールが効かなくなった子供が、泣きながらお菓子やジュースを要求し、困ったお母さんがそれらを与え、それがまた血糖値を急激に上げ、そしてインスリンの過剰分泌を招き、低血糖状態に陥り、また糖分を要求する。そんな悪循環があるのかもしれません。それはまさに、食原性の低血糖症に対して、さらに糖分を与えて症状を悪化させているのかもしれません。そして、母親のストレスは高まって、食事の大切さにまで気が回らないのかもしれません。

 もう1度、毎日の食事の大切さに気づき、虫歯予防を超えて、もっと豊かな生活が訪れるように願います。そんな想いを込めて、日々、患者さんに食事のお話をしています。

                               

【参考文献】

  1. 下野 勉(監修)・岡崎好秀(著)/楽しさ100倍!保健指導 (2000年)クインテッセンス出版株式会社

  2. 帯津良一・幕内秀夫/なぜ「粗食」が体にいいのか 「食生活」ここだけは変えなさい!(2004年)三笠書房

  3. 大沢 博/食事で治す心の病 心・脳・栄養―新しい医学の潮流 (2005年)第三文明社

 

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